大学院生がアメリカ、アルゴンヌ国立研究所とJefferson Lab で海外研究活動を行いました 。

博士課程2年生の野呂凱人さん(北林研究室)が5月末から1ヶ月、アメリカ、アルゴンヌ国立研究所とJefferson Lab に研究留学をされました。野呂さんは本学理学部物理学科を卒業され、現在は本学大学院、総合理工学研究科に在籍しています。昨年度末までは主にベンツ研究室で、現在は北林研究室で研究をされています。(※ベンツ先生は昨年度末に退職されました。)今回の留学について、野呂さんからお話を伺いました。 

「私はアメリカのシカゴ近郊のアルゴンヌ国立研究所にて共同研究者であるIan C. Cloet教授の研究室に3日間、また1986年から毎年開催されている「Hampton University Graduate Studies Program 2022 (HUGS2022)」に参加するためにノーフォーク近郊のJefferson Lab にて3週間滞在しました。普段はアインシュタインの一般相対性理論と、素粒子レベルで原子核を扱う有効理論の1つのNambu-Jona-Lasinio Model を用いて、ブラックホールに次ぐ強重力天体である中性子星の内部を調査しています。研究室滞在中には自分が作成した数値計算のプログラムの内容についての議論をしました。Jefferson Lab 滞在中は、原子核分野の理論から実験まで広い範囲の最先端の研究講演を聞くことができました。自分の口頭発表もあり、質疑や議論によって今後の研究に繋がる良いヒントをもらえました。色々な研究について知る良い機会であったと同時に参加者の研究に対する熱意を凄く感じ、良い刺激となりました。」

野呂さんの今後のご活躍、期待しています。

OG講話&学科セミナーを開催しました。

本学OGである江口菜穂先生(九州大学応用力学研究所大気海洋環境研究センター・准教授)にお越しいただき、1年生向けのOG講話では「キャリアパス ある大気学者の場合」、学科セミナーでは「地球大気科学の基礎」というタイトルでご講演をいただきました。江口先生は、本学在学中には雪氷が気候に与える影響について研究され、現在は九州大学応用力学研究所大気海洋環境研究センターで成層圏―対流圏間の力学的相互作用について研究をされています。

OG講話ではご自身のキャリアパスについて、ざっくばらんにお話しいただきました。受講した学生から、

「江口先生の話からは夢中になれることを探し、それを突き詰めるということを学びました。これといった夢中になれるものが自分にはまだないので、大学生活中に見つけたいです。」

「ご自身の研究の原点を忘れないように、辛いときには励みにしながら研究を行っているとのことで、自分も最初に物理に対して抱いた興味、感動を忘れないように勉強、ゆくゆくは研究をしていけるよう頑張っていきたい。」

と感想をいただきました。みなさん良い刺激を受けたようです。

学科セミナーでは地球システム系で重要な役割を果たす地球大気の概要から、気象現象および地球規模の環境問題についてお話しいただきました。

江口先生、ご講演いただきありがとうございました。

大学院生が筆頭著者の論文が掲載されました。

物理学科出身で現在は理学研究科の修士課程に在学している塚原さんと小田切さん(新屋敷研究室)が筆頭著者の論文が学術雑誌に掲載されました。

塚原さんが筆頭著者の論文”Dielectric relaxations of ice and uncrystallized water in partially crystallized bovine serum albumin-water mixtures”はRoyal Society of Chemistryが発行する学術雑誌”Physical Chemistry Chemical Physics”に掲載されました。この論文では広帯域誘電分光法を用い、低温下で凍結するタンパク質水溶液中の氷や不凍水の誘電緩和を観測し、その関係や特徴を明らかにしました。塚原さんから「コロナ禍により不便も色々とありましたが、大学院での研究活動の集大成として学術論文を掲載することが出来ました。新屋敷先生にはもちろんのこと、ご指導ご鞭撻を頂いたResearch Group of Molecular complex System(RGMS)の先生方や学生の皆様にも心から感謝しています。」とコメントを頂きました。

Tatsuya Tsukahara, Kaito Sasaki, Rio Kita, and Naoki Shinyashiki
“Dielectric relaxations of ice and uncrystallized water in partially crystallized bovine serum albumin–water mixtures”
Physical Chemistry Chemical Physics, in press
DOI: 10.1039/D1CP05679D

小田切さんが筆頭著者の論文”Interfacial polarization of in vivo rat sciatic nerve with crush injury studied via broadband dielectric spectroscopy”はPLOSが発行する学術雑誌”PLOS ONE”に掲載されました。損傷した神経の再生候補である電気刺激の適切な条件を見つけるために、広帯域誘電分光法を用いた神経インピーダンスの研究が、新屋敷教授の研究室と京都大学の共同で行われ、損傷の有無による界面分極に起因する誘電緩和強度の違いを明らかにしました。その成果をまとめたのが上記の論文です。小田切さんから「他大学の他分野の方々と研究をできたことは、自分の知識や経験を広げる貴重な機会となりました。また、論文が出版できたのは、新屋敷先生、京都大学の先生方や学生、研究室の先輩方のお陰です。感謝しています。」とコメントを頂きました。

Risa Otagiri, Hideki Kawai, Masanobu Takatsuka, Naoki Shinyashiki, Akira Ito, Ryosuke Ikeguchi, Tomoki Aoyama
“Interfacial polarization of in vivo rat sciatic nerve with crush injury studied via broadband dielectric spectroscopy”
PLOS ONE 2021;16(6): e0252589.
DOI: 10.1371/journal.pone.0252589

学生による研究紹介 宇宙線反粒子探索計画GAPSの開発

宇宙線反粒子探索計画GAPSの開発を行っている、物理学科4年生河内研究室の大山千晶さんによる研究紹介です。

宇宙線反粒子探索計画(GAPS)は日米伊を中心に約60名が参加する南極周回長時間気球実験です。宇宙線中に微量に含まれている反粒子(とりわけ未発見の反重陽子)の高感度探索を通じてダークマター等の初期宇宙物理の課題に迫ることを主目的としています。
私はJAXAに赴き、気球フライトに耐えうる冷却システムの開発を主に行いました。実験結果が明らかにおかしい時、原因解明の為に実験装置のパーツや使用した液体の温度、温度センサー等を一から確認しなければならなかったことは大変でしたがやりがいがありました。
基本的な作業(実験装置準備から結果を出すまで)のほとんどを自分に任せてもらえましたが、ミスが入ってしまうこともありました。しかし、ミスをしたとしてもちゃんとこういう理由があるから注意が必要なんだよ、と学生目線で一緒に考えていただいたことや、目立たない部品の実験でも試験機を動かすためには必要不可欠なものであり、国際的なプロジェクトの一員として名前が載るんだよと言われたことが印象に残っています。
このように、東海大学ではJAXAと共同で研究を行うことが出来ます。大学には無い研究施設や研究員の方と実際に関わる経験はとても貴重であり、実験以外にも目的に対する考え方やデータのまとめ方を自分なりに見つけ学ぶことが出来ると思います。

卒業研究発表会を行いました。

2022年1月末に,テレビ会議システム、Zoomを使った遠隔形式での卒業研究発表が行なわれました。皆さん素晴らしいご発表でした。卒業生が行なった発表のタイトルを一部掲載します。

  • 離散フーリエ変換による協和音・不協和音の解析
  • 矮小楕円銀河からの GeV ガンマ線観測によるダークマターの質量と衝突断面積 に対する制限
  • 宇宙線反粒子探索計画 GAPS 用冷却システムの開発 ―接触熱伝達の改善に向け たフィラーの評価―
  • Fermi 衛星による活動銀河核の観測
  • 先進ダイバータを模擬した湾曲発散磁場における非接触プラズマの挙動
  • 非線形光学結晶による第 2 高調波発生において波長変換効率と出力の向上に関 する研究
  • 光学計測による音響波検知の基礎的研究
  • 高分子水溶液の粘性挙動に及ぼす尿素添加と温度変化の影響
  • 示差走査熱量測定によるマンニトール/ソルビトール混合物のポリアモルフィ ック転移に関する研究
  • 中学校理科物理分野のデジタル教材の開発
  • TensorFlow を用いた波動関数の計算
  • Massless Spin1 粒子と Ward 恒等式
  • 固体色素増感太陽光励起ファイバーレーザー
  • 場の量子論による電子の異常磁気モーメントの導出
  • マルコフ連鎖モンテカルロ法を用いたスリザーリンクの数値解法
  • バリオン数の保存について

大学院理学研究科の金子さんと神永さんが「第38回プラズマ・核融合学会」で若手学会発表賞を受賞しました

物理学科、利根川先生の研究室に所属している大学院理学研究科の金子さんと神永さんが「第38回プラズマ・核融合学会」で若手学会発表賞を受賞しました。おめでとうございます!

遠藤教授が携わった論文が学術雑誌Advanced Optics Materialの表紙を飾りました。

物理学科の遠藤教授は長年、太陽光励起レーザーの研究に取り組まれてきました。この度、シミュレーションの結果をもとに、太陽光励起レーザーの設計を見直すことで出力の大幅な向上が可能であることを示し、その成果が学術雑誌Advanced Optics Materialに掲載されました。さらに、その成果を表した絵が掲載号の表紙を飾りました。

以下のリンクから原著を閲覧できます。(オープンアクセス)

Stephan Dottermusch, Taizo Masuda, Masamori Endo, Bryce S. Richards, Ian A. Howard, “Solar Pumping of Fiber Lasers with Solid-State Luminescent Concentrators: Design Optimization by Ray Tracing”, Advanced Optics Material 9, 2100479 (2021)

https://doi.org/10.1002/adom.202100479

2020年度卒業研究のタイトル

2021年2月に,Teamsを使った遠隔形式での卒業研究発表が行なわれました。卒業生が行なった発表のタイトルを一部掲載します。

  • 音響解析で調べる古代アンデスの遺産(楽器土器)
  • 古代アンデス楽器土器の音響シミュレーション
  • 水素結合に着目した高分子溶液のレオロジー特性
  • 廃棄昆布をエネルギーに-海藻由来のバイオエタノール生産-
  • 海の恵みの新活用法-わかめに含まれるセルロースの低分子-
  • 腱分泌組織テンドンゲルの医療応用に向けたコラーゲンの誘電測定
  • 塩基性多糖キトサンの熱拡散現象
  • グアニン-シトシン含量を制御したDNAの熱泳動現象
  • 温度勾配下のメダカ卵観察による発生過程の解析
  • トリチウム水処理に向けた流体デバイスの開発と機能評価
  • 氷結したPoly(vinyl pyrrolidone)水溶液中のX線回折法による氷の結晶構造
  • Poly(vinyl pyrrolidone)-propylene glycol溶液の誘電緩和の多様性
  • 氷結した球状タンパク質水溶液の氷の誘電緩和とX線回析法による結晶構造の研究
  • 純氷の誘電緩和の冷却速度依存性
  • Geant4を用いた電子飛跡検出型コンプトンカメラのエネルギー分解能別性能評価
  • Geant4を用いたシミュレーションによる電子飛跡検出型コンプトンカメラの位置分解能
  • 評価
  • 電子飛跡検出型コンプトンカメラのデータ収集システム改善
  • 電子飛跡検出型コンプトンカメラ (ETCC)を用いた多方向撮像の考察
  • Raspberry Piでのカメラからの画像認識と機械学習
  • 畳み込みニューラルネットワークを用いた銀河の判別
  • BL Lac天体の可視光望遠鏡による光度変化観測
  • 多地点流星電波観測によるおひつじ座昼間流星群の5年間の活動の解析
  • 流星電波観測に含まれる飛行機エコーの多地点解析
  • 宇宙線反粒子探索計画GAPS用ヒートパイプの開発─実規模を用いたヒートパイプ内「ピン」の有効性の検証─
  • Fermiガンマ線宇宙望遠鏡による電波銀河M87の観測
  • 超新星残骸の進化とガンマ線の起源
  • マグネターの進化:異常X線パルサーから軟ガンマ線リピーターへ
  • 機械学習を用いた波動関数の求め方について
  • Excelを用いた簡易的な物理を理解する教材の作成
  • VR技術による物理実験室の開発
  • 原子核の質量公式について
  • NO2のレーザー検出に関する基礎研究
  • 青色半導体レーザーの外部光共振器に関する研究
  • 光ファイバーにおける誘導ブリルアン散乱閾値のパルス幅依存性に関する研究
  • ファイバーレーザーにおける発振線幅と第2高調波発生効率への影響に関する研究
  • 940nm帯半導体光増幅器のパルス増幅特性に関する研究
  • 蛍光型太陽光集光器(LSC)の最適化問題
  • 直線型ダイバータ模擬装置での湾曲発散磁場を用いた熱負荷低減の基礎研究
  • 重水素非接触プラズマ暴露によるダイバータ材料の表面改質
  • 電子フェンスを用いた非セシウム型負イオン源の引き出し電極への熱負荷低減
  • 2準位原子-共振器結合系における真空Rabi振動とPurcell効果
  • グローバーのアルゴリズムにおけるデコヒーレンスの効果
  • 摂動が存在するときのトーリックコードの数値計算
  • Harrow-Hassidim-Lloyd(HHL)アルゴリズムのデモンストレーション
  • マルコフ連鎖モンテカルロ法の連立方程式・数独への応用
  • イジング模型の相転移点の数値計算:1次元と2次元の間の転移点の変化
  • フォルトマント消去と周波数スケール変換によるボイスチェンジ
  • 合成信号の実フーリエ級数展開
  • 離散フーリエ変換に基づく簡易型シンセサイザーの作成
  • 音の周波数特性を用いた自動採譜プログラムの作成
  • 子音と母音のフーリエ解析と日本語音声の再構成
  • 離散フーリエ変換を用いた和音解析
  • 場の量子論における発散の正則化と繰り込み
  • 量子電磁気学とCPT変換
  • 強化学習の基礎と物理学への応用の可能性
  • CP対称性の破れと時間の矢
  • オッカムの剃刀によるニュートリノ混合
  • ダークマターと古生物の大量絶滅
  • ヒッグス類似粒子からの重力波
  • DCGANによる銀河の画像生成
  • Higgs粒子と次世代加速器ILC
  • ビッグバン元素合成による重水素の生成
  • 観測ノイズによる人工知能の混乱
  • 魔方陣とニュートリノ質量行列
  • ダークエネルギーと宇宙の未来

研究紹介 佐々木海渡研究室

高圧力下物性計測システムの写真。左から10トン油圧プレス機、油圧ポンプ、物性計測システム。圧力範囲は1気圧から4万気圧、温度範囲は-196℃から室温における物質の電気的、光学的、熱的性質を調べることができる。

同じ組成の物質でも性質の異なる結晶形が複数存在することがあります。これを結晶多形と呼びます。例えば黒鉛とダイヤモンドは炭素単体で構成されていますが、その結晶構造(粒子の配列)が異なるため、物性も大きく異なります。もう一つ具体例を示しましょう。我々の身の回りに広く存在している水も実は結晶多形を示します。水分子は酸素原子1つ、水素原子2つからできており、その構造はとても単純です。ですが、驚くべきことに水の結晶系は少なくとも19種類も見つかっています。これは水素結合と呼ばれる異方的な相互作用により、水分子達が互いに影響を及ぼし合っていることが原因の一つと言えます。

結晶に多形が存在することは、黒鉛とダイヤモンドの例のように、広く知られています。では、液体状態には多形が存在するのでしょうか?素朴に考えれば、ランダムな粒子配置を特徴とする液体では、その構造の特徴は一つに決定されるような気がします。ですが、実はリンやケイ素、シリカガラス、水などでは液体状態が複数存在することがわかってきています。現在の所、注目する液体の構成粒子が(a)ネットワーク性の相互作用を持つ場合か、(b)異方的な相互作用を持つ場合、もしくは、(c)複数の谷があるポテンシャルを持つ場合にその液体が液体状態の多形を示すと言われています。(図を参照)

実験風景。佐々木先生と博士課程の高塚さん。

私の最近の研究の目的は、特に水について、複数存在すると考えられる液体状態の動力学的な側面を明らかにすることです。水は身近に存在する液体であり、我々の生活どころか生命活動になくてはならない物質の一つです。一方で、科学的な立場からは水は異常な液体であると認識されています。近年、水の異常な性質は液体状態の多形で説明可能であることが提案されており、水の不思議に迫るために日々研究に取り組んでいます。

図 複数の液体状態をもつことの原因であるとされる考え方。三島、Netsu Sokutei 31(1)23-28を参考にしています。